三刻「灰雛は血染めの羽衣を纏う」

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苛立ちをかきたてるような蝉のうるささが上下左右から四方八方に不協和音を響かせる。 ゆらり……ゆらり……とホームは揺れている。 夏の暑さでだろう、ホームがぐらぐらと湯が沸き立つかのように揺れている。 気持ち悪い……。 でも、いまの私にはどこか心地いい。 夏の日差しに熱されたホーム……焼かれた線路、重く響く重厚な電車の車輪の音が熱く鈍く線路を歪め、放射熱に揺れる風景と重ね合わさり幻想を際立たせる。 熱を帯びた空気がすべての思考を鈍らせる。 そこにひとり、ぽっつりと灼熱のホームにゆらりと立つ少女が居た。 流行に、制服と装飾を染められた少女。 すべてを着飾り、偽り、心も片時の色に染めに染められそのパレットを汚されたらしい。「もう私のパレットに白はない」大方、そんなことを考えているのだろう。 「この蟲は、死ぬのね」 ぼそっと私はつぶやいた。
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