三刻「灰雛は血染めの羽衣を纏う」

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4線ある電車のレール、その駅にある2つの煮え立ち空気が歪む快速通過用のレールの上を彼女はまじまじと見つめている。 自業自得のその身と心が現実から逃れるためだけに灼熱の鉄棒に投げ込もうとしている。 自分をこうした親や社会、友人や親友と思ってきたモノを今全て見下し、嫌悪し、軽蔑し、そんな世界に居る自分を否定して楽になろうとしている。 彼女を『蛆蟲』と呼ぶのは、懸命に生きる蛆蟲に対して失礼だとさえ思う……。 だけど……(笑) でもね……?(哂) 私の中の『蛆蟲』は、『人』でしかないからそれでいいの(嘲) 自分の身勝手、それ故に起きたことを全て他者に理由をなすりつけてその他者行為を蔑み、自分は十分に苦しんだと自らに救いの手を差し伸べて……灼熱に思考を鈍らせ重厚な音に引き裂いてもらおうとしている。 なんてずるい選択。なんて利己的な選択。でも……それが『人間』。 「滑稽ね……」 またぼそりとつぶやき笑う。 自身の存在すら蔑めない蛆蟲が、最期の言い訳として自己優越に浸り、己を美化し肯定して、自分の作りあげた都合の良い過去と未来を記憶に固定したまま、その時間を静止させようとしている。
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