四刻「灰雛と日常と現実と非日常と非現実と」

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ビルの間の鉄筋と鉄筋とを伝って、狭い路地に下りる。 「ふっ!! よっ……と……」 運動神経など微塵もなかった私が、軽快なフットワークとともに鉄筋の間をネコよりもしなやかに滑り降りていく。 これもどうやら、身に付いたものらしく、最初こそ失敗することもあったけど、ゲーム感覚でだんだんと慣れてきた。 「なんだ10円っか……」 路地の隅っこに落ちていた10円玉を拾って私は少し機嫌を損ねた。 そう、私はお金を集めている。 願えばザクザクっとお金が出てくるようなチートは、ない。それに、お金というシステムを使わずとも別段欲しいものはないし手に入れようと思えば、たぶんなんとでもなる。生物の根本である空腹もない。 ないはずなのだが……私にはどうしても一つやめられないものがあった。 「いらっしゃいませー!!」 聞き覚えがあるだろうか? 「素晴らしい猫かぶりですね」と思わず言い返してしまいそうになるくらい、笑顔の気持ち悪いハンバーガーショップ「マッドナッド」。 そこに私の目的のものがある。というより、これがないと落ち着かない。 だからこそ、しゃくではあるけど、人間が作り出した貨幣経済の奴隷といまだけは成り下がっている。 「おまたせしましたー、マッドシェイクでございます!! ありがとうございました!!!」 ……悪い? 夏限定というわけではないけれど、夏は消費量が上がるし、冬だっておいしい。むしろ、なぜ冬に需要が上がらないのかが不思議でならない。 ………何?その文句をつけたそうな顔は? 真夏とはいえ、まだ学校は夏休みになっていない時期、当然大人と呼ばれる、小さい害虫からより悪成長を遂げた蟲どもは論外、主婦という名のしゃべり蟲が集団で居ると不快だが……今日はそれもないという、爽やかに空席が目立っている昼下がりの店内。 閑散としたその中で、日の全く入らない一番奥のテーブル席に座る。 この夏に発売された新商品、ヨーグルトシェイクは、ちょっとしたマイブームである。 …………やっぱりなにか言いたそうね……。まあ、いいわ。
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