四刻「灰雛と日常と現実と非日常と非現実と」

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「人間という自らの正当性しか主張できない蛆蟲が嫌いだから、みなさんが虫を殺すようにさも当たり前に……という回答では満足しないのでしょうね?」 「はい、残念ながら……」 「そ。……ねぇ、あの2人のどちらかでも死んでかわいそうだと思いました? あの学校って、なかなか難関の美大ですよ? それくらいは、ご存知ですよね? それは何故か。お金持ちの一部の有能な生徒しか、もともと入れないようにしているから。 どんなに才を秘めていて、努力している途中の子など入れない、エリート中のエリートな美大なんですよ。 さてその中で、才能と環境に恵まれまくった参加者のみ、つまりはエリートで有能で将来が約束された連中が集うコンクールでトップクラスになるような生徒同士が小競り合いを起こしました。これだけ僅差のレベルの上下で、人を見上げるか見下すかしてるんですよ!? 見下すか見下されるかの心配ばかりに一喜一憂してるんです。 わかりますよね……? あの人たちが、外の社会に出てたら、どうなってたと思います? ゴミ、屑……臭い蟲にしかならないでしょ。 差が開けば開くほど、評価されていない人間をまるで進化の過程まで自分達とは違うと否定するような目で見下し差別し排除しようとするのよ? 自分より下は無能だ、ってね。そのくせ、自分より上の相手には見下されぬよう媚びを売る……。 自分達の物差しで計って決めた、自分たちよりも有能人である人間からの評価。それへの嫉妬で人に殺意を覚えて、より優れた人から褒められることで勝手に救われて、評価を十分得て、すべてに恵まれておいて、自分の作品が評価されてないとか、私は認められてないだとか……身勝手にも程があると思わないですか? そう思うのは私だけだと思いますか……? 才能にも環境にも恵まれているこんな屑がいる一方で、なににも恵まれず努力するしかない誰にも見てもらえない作品だってたくさんあるのよ? 誰かに届けたくても届かないものって、無数にある。 神の両手から零れ落ちるほどに。 あの2人はどっちも届いてた。届いてることに気付こうとしないだけで、自らの世界観と価値観で全て物事を身勝手に決め込んで……あの子たち、どっちもかわいそうなんてことないでしょ? 微塵も。あの2人が世に出てどうなったか……わからない訳ありませんよね?」
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