一刻「灰雛は産声をあげる」

2/12

115人が本棚に入れています
本棚に追加
/382ページ
阿阿……耳障りな嫌な声だ。チャラついた害虫の鳴き声だ。 男というのは、こうも本能という名の初期設定単純プログラムに従順なのだろうか? 女子高生の後姿に発情でもしたか? 単純プログラムに猛毒ワームでもぶち込むように、下から突き上げた固い革靴で空まで逝かせてやろうか? そう振り向いたまさにその瞬間、目の前は白に包まれたのだった。 白、白、白……。どこのなにを見ても焦点の定まらないほどの純白の世界。 目がかすんでいる……身体は金縛りのように動かない……。脳は視覚が映す白い世界にぐらぐら揺れる。冷たい、寒い……これは死体の安置室のその感覚。白の空間は徐々にその陰影を強め、さっき居た蟲がうごめく騒がしい繁華街へと姿を変える。 けれど……。 誰も居ない……とても静かな……。 「だ……れっ……?」 感じたのは気配、背中にある気配。金縛りと同じ……声が出ない、鉛のように空気は重く、喉から振り絞る。 「……」
/382ページ

最初のコメントを投稿しよう!

115人が本棚に入れています
本棚に追加