四刻「灰雛と日常と現実と非日常と非現実と」

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驚いた。まさかそのドールが直接語りかけてこようとは思いもしなかったから……。 その声は、小さくて儚げで……まさに彼女の姿そのもの。であるにも関わらず、彼女のその声は凛としていて、澄み渡り、街の雑音や空気の流れる音が静まり返るような厳かさを持って、私の耳までその美声を届けている。 消え入りそうな声が耳に届くのは不思議なほど……。この世界は調整し合わせただけの似非共鳴音と不協和音に満ち満ちているというのに……。 「人が信じれば……それは“神”というものに……なるの……。地域を守る土地神様……自然への畏怖から始まった……様々な神々と信仰……日本という土地だけでなく……世界のあらゆる場所で……人々の願いが……想像が……良しも悪しもあらゆる“神”を創造した……。そして私たちは……」 「まりー……」 「はうっ……!?」 「ごめんな……そのペースだと……日、暮れる……」 話の途中に連れに割り込まれた少女は、どこからともなく現れたクマの大きなぬいぐるみを抱っこし、途端鉄塔の隅に去ったかと思えば、こちらに美しい銀髪のみの背を見せて「うー……うー……」と完全にそっぽを向いてしまった。 当のつっこんだ連れのほうは、どうしたものかという困り顔を浮かべながらも、なんとか話を続けようとする。まったくもって、緊張感の続かないことである……。
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