3人が本棚に入れています
本棚に追加
「逃げよう」
学校の帰り、僕は、自室にあった値打ち物を全部売り、上級生が下校するのを待った。
校門の前で、兄を捕まえ、そのまま嫌がる兄を強引にバスに乗せ、汽車に乗せ、僕の母方の親類がいる地方に向かった。名も知らぬ駅で一晩明かし、今こうして名も知らない海岸にまで連れ出した。
結局、僕に従った兄を、その当時は、彼も逃げ出したかったからなのだろう、と理解したが、
今思えば、彼はその後も予見した上で、全てを終わらせたかったのかもしれない。
僕は、彼を助けたかった。
あの暗く重い闇から、逃してあげたかった。
『たすけて』
涙で訴える濡れた瞳を、忘れられなかった。
兄は、
実父に。
圧し潰されていた。
最初のコメントを投稿しよう!