はまなすの頃

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相変わらず、風は潮の薫りを運んでそよいだ。 じぶんの短い影のみが落ちる廃駅となって久しい白いホームは、雑草が蔓延り、罅割れ、駅舎も朽ち果てていたが、 薄桃のはまなすの花の向うに見える海はあの日と同じ様に、ひねもす、穏やかで懐かしく、優しい。 全てを包みこむような暖かさと、清廉で美しいその海は、あの頃の兄を鮮明に心に呼び起こす。 はまなすの頃。 思い出すのは、兄といた夏。 潮騒と星屑と砂浜と兄だけを感じた夏のひ。 あの夏の逃避行を僕は、今も忘れない。 目を閉じれば。 あの日と変わらぬ風がある。 響く汽笛がある。 兄の笑顔がある。
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