はまなすの頃

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がたごとと、ふたりだけを車輌に乗せた汽車は、水平線ばかりの見える海岸を走り続けた。 窓から入り込む涼風は潮の匂いをたっぷり含んで、二人の髪をさらさら揺らし続けた。 その駅に決めたのは、窓から見える、無人の駅舎が、すごく気持ちよさそうに見えたからだった。 薄桃のはまなすの花だけが揺れる長方形の白いホームにふたり、降り立った。 長く細く伸びるレールの向こうに鉄箱が汽笛とともに消えると、 あとは、野花の擦れる音と、みんみん蝉の声、かすかな潮騒だけだった。 手を繋ぐふたつの短く薄い影だけが、白い地面に在る。 ぐっと、濃くなる潮の薫の中にむっと、草いきれが風に交じる。「行こう」 弟はホームに立ちすくんだまま動かない兄の柔らかい掌をそっと引いた。 盆を過ぎた白い砂浜に人影は無く、 海の向こうまで、まるで世界はふたりだけのようだった。 ふたりだけの静かな世界が続いていればいいと願った。 「兄ちゃん、海入ろう、海!」 広史は態と無邪気に振舞うと、片手は兄の手を離さずに、器用に靴を脱ぎ捨てた。 「ほら」 なにも、なにも、知らない空。 「ほら」 掴まえていないと、居なくなってしまうんじゃないか、そんな想いに駆られながら。 兄の手を離さずに。 離さずに、波を追った。夏のおわりの空の下。 _
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