第一章

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美和が、組んでる五月の腕を少しつねった。 本気で怒っている訳ではない 「痛!」 「ふざけてばっかりいるからよ!」 五月は 「ひっかかる方が悪いんだろ、俺を見ろよ俺を」 と、胸を張った。 実際、五月はつまらない冗談にひっかかるような事はなかった。 結局八人は、昨日と同じ中華料理屋へ入って行った。 「俺はもやしソバ」 五月が店員に言う。 既に、馴染みの店であった 「いつもどうもね」 店のおばさんが、冷たい水を持ってきた。 全員が注文し終わると、美和が甘えた声で 「ねぇ、ご飯食べたらビリヤードやろ?」 五月は 「ビリヤードか、いいよ」 「やったぁ!」 美和が手放しで喜んだ。 そんな美和を見て、五月は 「お前、俺に勝ねぇくせに」 と冷やかした。 「いいの!やってるだけで楽しいんだから!」 美和が言って、煙草を取り出して火をつけた。 美和の小さな口から紫煙が吐き出される。 「お前らも来いよ」 五月が他の者も誘う。 「いいですよ、しかし翔ちゃん強いからなぁ」 五月はビリヤードが得意だった やるのは、いつもナインボールである。 「お待ちどうさま」 おばさんが、注文した物を運んで来た 「お先に」 青田が言って箸を割った。 他の物も、次々と運ばれてくる。 しばし食事に熱中。 「高田、水!」 五月が云うと 「はい!」 素早く高田が、冷たい水を持って戻って来た。 「おう、サンキュー」 五月は、ゴクリと水を一飲みしてから 「おい高田!お前はなかなか使えるな」 五月に誉められて、高田は 「えっ?自分っすか?ありがとうございます」 と、頭を下げた。 この、高田順一は、一年の番長である。 五月が、食後の煙草をくわえると、高田が、サッとその先に火をつける。 五月は、 「フー、幾らでやる?」 煙草の煙を吐きながら、みんなに聞いた。 「千円!」 美和が云う。 いつも千円なのである。 「いいよ」 五月がうなずく。 美和が 「どうせ翔が勝つに決まってるもんねぇ・・」 とため息をついた。 五月は苦笑して 「なら、やんなきゃいいだろ?」 「でも、やりたいの!翔が賭けないと嫌だって言うんだもん・・」 「当たり前だろ?疲れるんだぜ、結構あれよ」 と、五月は煙草を灰皿で揉み消しながら云った。 「わかってるわよ」 と美和も笑う。 五月が 「八人だから、四人ずつに別れてやろうぜ」 と云うと、高田が 「その方がいいですね、八人じゃ多いですし・・」 と云って、スープの残りを飲み干した。
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