第一章

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女と違って、玉に勢いがある。 しかし青田は、三度目にミスをした。 次の里香もミスをしたので、すぐに五月に番が回ってきた。 「貰いだな」 そう五月が呟いた。 残った玉は三つだが、9番の玉は、五月の腕ならクッションを使えば落とせる位置である。 五月は 「金の用意をしとけよ」 と云うと、キューを振った。 白い玉が、7番に当たって、9番の玉をポケットに叩き込んだ。 「チェッ!」 青田が舌打ちして、財布から千円札を取り出して五月に渡す。 高田の動きは早かった。 既に玉を並べ始めている。 ブレイク権は五月である。 「ブレイクナイン行くか?」 そう五月が云うと、青田は 「まさかぁ」 「よし、見てろよ」 五月が、慎重に狙いをつけた。 一発でナインボールを落とすつもりなのだ。 五月は、二、三度素振りをしてから、力を込めて打った。 自分でも無理だと思っていたのだが 「あー!!」 青田が目をむいた。 「ほれ見ろ!」 五月は胸を張った。 まぐれで9番がポケットインしたのである。 五月はニヤリと笑い 「祝儀は一万だったな?」 と確かめると、青田は 「はぁ・・そうです」 そう云って、財布から今度は一万円札を取り出した。 「凄い!翔カッコいい!」 美和が自分の事のようにはしゃいだ。 五月は 「おい、疲れたから、少し休もうぜ」 と、キューを立て掛けながら云った。 このビリヤード場は、市川市の行徳駅前にあり、この辺りの不良の溜まり場なのだ。
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