第五話・心の絆。心の支え。

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「あの、先輩。鼻血…ごめんなさい」 そういえば、彼女にはたかれた際に鼻血が出ていたのだったか。 結構垂れていたらしく、私の服の胸元が少し赤くなっていた。 奇跡的に荒木の服などには付着していなかったので、ほっとした。 私なんかの血で荒木の衣服などを汚したりなど、申し訳ないにもほどがある。 「何、気にするな。お陰で、目が覚めたのだからな」 私は袖が汚れることも構わずに鼻を拭い、荒木の頭を再度撫でたあと、礼を言って遊馬のもとへと向かった。 部屋を出てロビーに出ると、元気に振る舞うティータと、何とか気遣いをやめさせようとしている遊馬がいた。 私は遊馬のそばによって、その隣に腰かける。 「遊馬」 そこで、私は遊馬の体をぎゅっと、強く抱き締めた。 驚きに体が硬直したようで、ストーンからは結構、露骨な驚きの反応がうかがい知れた。 「やっときましたわね。……アスマのこと、お願いします」 そういって、ティータは部屋へと戻っていった。 こちらに背を向ける際に、ティータの蒼い瞳からは涙がこぼれ、光っていた。 捜査機関による明日の聴取が終わったら、ティータには、うんと感謝を込めて礼を言おう。 「姉さん…?」 「何も言わなくていい。全部わかってる」 「ストーンでバレバレだからね」 そして、少しの沈黙が流れる。 「ねえ、どうして姉さんは近接から遠距離型に変えたの?」 こんなときに、私のことを聞くか。 好奇心か、それとも、私の心のうちに秘めた気持ちが暴かれているか。 しかし、この際はどちらでもいいのだ。 なにしろ、ようやく、私は私の気持ちに決着をつけられるのだから。 荒木のくれた勇気と、ティータのくれた時間のお陰で。 そして、遊馬がいてくれているのだから。 恐れることは、ないのだから。 「十年前…、私のストーンの暴走を覚えているな?」 「うん。けど、あれはもう許してるよ」 「ああ。だが、私は二度とあんなことにならないために、格闘に不向きのチューニングを施した。もう、お前を傷つけないために。お前を傷つけてしまうことで、私が傷つくことが無いように。だから、私は剣を捨てたのだ」 そう。 私はもともと、射撃は不得手であり、入学する以前、兄さんに頼んでチューニング、トレーニングをしてもらったのだ。 すべては、私が傷つかないために。
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