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◆◆◆◆  少年は、体育館に来ていた。  今年高校三年生に無事進級していた彼は、先日部活を引退したばかりだ。小学校の頃から続けてきたバスケットボール。次の世代に思いを託し、その競技生活にピリオドを打ったのはつい一週間前のことである。部活漬けの毎日から一転、勉強に追われる日々を過ごしていた。そして今日、唐突に世界の終わりを告げられた。気付いたら、足は自然とこの場所へ向かっていたのだ。  所々に錆の目立つボール入れからボールを一つ取り出す。両手でしっかりと掴み、その感触を確かめる。あぁ、これだ。少年は思った。綺麗にニスの塗られた床にボールをバウンドさせる。手に吸い付くような心地よい感覚を味わいながら、少年は自分の中が満たされていくのを感じた。ドリブル。キュッ、キュッ。バッシュが床を掴む軽快な音と共に、一週間前までの思い出が蘇る。これだ。少年は再三思った。これが俺の青春だ。勢いのままにシュートを放つ。見事にリングに嫌われた。衰えの早さに驚くより先に、改めて自分がどれだけ多くの時間をこのボールと過ごしてきたのかを思い知らされた気がして、自然と笑みが零れた。 「何ほくそ笑んでんだよ、気持ち悪ぃな」  転がっていった相棒を拾いに行こうとした時、誰かの声が体育館に響いた。 「お前なら来てると思ったよ」ついこの間まで一緒に青春を駆けていたチームメイトが、そこに居た。転がっていたボールを拾い上げ、日に焼けた肌がよく似合う少年がにっと笑う。「んじゃ、やりますか」  午前十時二十分。
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