1人が本棚に入れています
本棚に追加
「家は、この近くなのか?」
「はい、ここからなら、五分くらいで着きます」
「そうか。まぁ、あの男なら、あんだけ言えば今日はもう絡んでこないと思うが……
一人で大丈夫か?」
女の子は向こうをちらりと見て、小さくうなずいた。
冷静そうに見えるが、その実、不安なのだろう。
バッグを持つ手に力が入るのがわかった。
「なんなら、近くまで送っていってやるよ」
「でも……」
「オレ、ヒマで散歩してただけだし。って、あー、いきなり現れた男にそんなこと言われても怖いわな。
オレ――」
「知ってます。二年の加藤雄次先輩ですよね、男バス部のキャプテンの」
「あぁ、知ってたんだ」
「カナちゃんが、この前告白したって」
カナちゃん――
「二週間前に告白してくれた子かな?」
「はい。覚えてるんですか」
「当たり前でしょ。
あの子と友達なんだ」
「同じ、吹奏楽部なので」
なるほど。
ということは、小さなバッグは楽器か。
「ふーん、そうなんだ。
顧問って、音楽の鈴木先生だよな? 結構厳しいって聞くけど」
「はい。でも、部活は楽しいです」
どちらからともなく、歩き出していた。
「カナちゃん、先輩のことすごく優しい人だって、言ってました。だから、先輩に告白する人がたくさんいるって。
いい友達になろうって言ってもらったって。
他の人にも、軽々しくそう言ってるんですか?」
そのまっすぐな物言いに、オレは思わず声を上げて笑った。
最初のコメントを投稿しよう!