際会

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「シキ、どうした」 男の声に、振り返る。 庭に通じる生垣から一人の若い男がこっちを見ていた。 明らかに不機嫌そうで、その理由をオレはそれとなく察した。 「あ、こんばんは」 ぺこりと頭を下げる。 「にぃにぃ、こちら、二年の加藤先輩なの。さっき偶然会って、それで――」 「なんだ、彼氏か?」 は? 「まさか」 シキが呆れたように即答した。 ギロリと睨んでくる男に、オレはやんわりと笑顔でうなずいた。 「あ、すぐ上の兄の〈ニオ〉です。すいません」 「あー、構わないよ」 妹が男と一緒にいるのが面白くないのだろう? 「わかるから」 妹を想う、兄の気持ちは。 「あの、寄って行かれますか?」 「え?」 「その……お礼も、かねて」 控えめなシキの声に、オレは笑んで首を横に振った。 「いや、今日は――」 「シキ、こんな時間に高校生を店に誘ったりするな」 こんな時間、ですか。 八時になるかならないか、くらいだけど。 「おやおや、何をしているのかなぁ?」 背後で声がした。 振り返ると、背の高い男がにっこりと首をかしげた。 「おかえり、シキ。お友達かい?」 「ただいま。うん、そう」 「よかったら、入っていきなさい」 男は先だって入口に行くと、ドアを開けた。 「ですが――」 「食事はすんだのかい? シキはまだだろう。きみも、軽めに食べるといい。 ニオ、何か作ってくれないか」
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