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小説を敦に貸したのは偶然だった。
面白い本はないかと聞かれて軽い気持ちで貸した、古いファンタジー小説。
それを読む敦を見ただけで、確信したのか。
「バカだなぁ」
敦は、本を借り物だと綾に言ったらしい。
オレから借りた、とは言わなかったのだろう。
だが、他から借りたと聞いたのなら、それを読む敦がどうして〈兄〉に繋がるのか。
いや、きっと探していたんだ。
綾は、自分が知らない〈兄〉の存在を、忘れていたはずの十数年前のことを記憶から探していたんだ。
――オレと綾は、二卵性双生児として生まれた。
一歳の時、二つ年上の兄――慎一という名前だったらしい――が親の虐待で亡くなり、両親に育児能力がないと判断されて、オレたちは別々に引き取られた。
綾は実母の妹夫婦である菊地家へ、オレはその妹の親友である加藤家へ。
家が本当にすぐ近くで、一緒の幼稚園に通い、行事があるたびに家族ぐるみで出かけたりして、とても仲が良かった。
ただ、兄妹であることは親同士の約束事で絶対に秘密だった。
母親同士が親友の、幼馴染。
オレたちはそういう関係だった。
六歳になってオレが親の都合で引っ越すことになった時、綾がオレにくれたのがあの本だった。
二人、大好きだった本。
「かしてあげるね」
「またいっしょに、よもうね」
確か、そんな言葉で別れた気がする。
別々の小学校に入学して間もなく、ちょっとしたもめ事があり、双方で行き来することがなくなったんだそうだ。
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