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詳しい理由はわからない。
ただ、綾の母親――実母の妹――が心を病んだのが原因らしいことは知っている。
その頃から綾に対する暴力が始まり、年を追うごとにエスカレートしたらしい。
小学校三年の時に、何かの拍子で頭を打ってから、綾の記憶が欠落したのだと聞いた。
だから綾は、それ以前の記憶があいまいなのだと。
親同士の約束では、オレたちには事実を話さないことになっていたけれど、オレの親はオレが中学に入学した時にすべてを話してくれた。
オレが養子であること。
オレに綾という双子の妹がいること。
その、綾の両親のこと。
オレが二人の本当の子供ではない――事実を知って、世の中すべてが信じられなくなって一時期は荒れた生活もした。
けれど、オレの親は根気よく、愛情を持ってオレに接して、そして育ててくれた。
それは多分、血のつながりとか関係なく、すごく運がよくかつ幸せなことだろうと思う。
そして、存在は教えられても所在は知らされないまま、中学を終えた。
綾に再会したのは、偶然だった。
高校に入学した時、一目見てすぐに綾だとわかった。
でも、両親からは絶対に真実を話すなと言われた。
話すことでトラブルが起きると、オレたちだけでなく、綾も傷つくことになると、強く言われた。
だからオレは、手紙という形で綾に話しかけた。
お前をいつも見守っている。
今はまだつらいかもしれないが
いつかきっと、
本当のことを教えるから。
そうしたら、
つらいことも
悲しいことも
なかったことになるから
その時が来るまで
それまでは心の中だけで
ともに
生きていこう
〈兄〉
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