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時には励まし、時には褒め、学校祭や球技大会のことも書き添えながら、いつもそばで見ていると、伝えてきた。
綾は、時折〈兄〉を探す素振りを見せた。
実際のところはわからないが、〈兄〉の存在は何らかの形で知っていたのだろうと思っている。
オレが知る限りたった一人の、血のつながる妹。
血のつながる、家族。
大切に、想っていた。
とても、とても。
何物にも代えがたいものだと。
それなのに。
「守ってやれなかった」
後悔。
それは、オレだけじゃなく。
母さんも、父さんも、同じ気持ちでいた。
どうして何もしなかったのか。
きっと、何かはできたはずなんだ。
なくすくらいなら、トラブルとか傷付くことなんてどうってことなかったのに。
何を、恐れていたのだろう。
「どうして、何もしてやらなかったんだ!」
悔しかった。
「どうして、敦だったんだ」
あの日あの時、早く来るようにと部活の顧問に言われていなければ。
大会の準備で頭がいっぱいになんてなっていなければ。
もう少し、綾の変化に、その気持ちに、気付いてやれたかもしれないのに。
屋上で、オレが兄だと言ってやれたら、もしかしたら、思い留まってくれたかもしれないのに。
「どうして――」
悲しかった。
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