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女の子はびくっと目をつぶった。
一瞬の、間。
「あぁ? なんだ、テメェは!」
完全に怒り心頭に発した男が振り返る。
だが、自分の振り上げた腕を掴んでいるのが、見上げるほどの男だと気付いて一瞬鼻白んだ。
多分、その時のオレの顔は相当苛立って怖い表情をしていたんだと思う。
みるみる男の顔が強張っていくのが薄暗い中でもわかった。
「な、なんだよ、テメェは。関係ないヤツはすっこんでろ」
言葉に、先刻までの凄味はない。
「その制服、S高校か。私立のヤツらって、ホント、頭悪いよな。
関係なくはない。その子、オレと同じE高なんでね」
男が眉根を寄せる。
確かめるように女の子をちらりと見るが、彼女の反応は何もない。
「あんた、彼女と別れたんだろ? それなのに付きまとうなんて、往生際が悪いっていうか、女々しいっていうか。
嫌がってる女に、付きまとうなよ」
手に力を込める。
相手は相当痛いはずだ。
フルフルと腕が震えている。
男はもう一方の手でオレの手を払うと、握られていた手首をさすりながら舌打ちした。
何かを言いかけたが、これ以上はただではすまなくなると判断したのか、
「バーカ、死ね、クソ」
と捨て台詞を残して去って行った。
男の姿が見えなくなって、ようやく、女の子は息をついた。
「大丈夫か」
「あ、はい。ありがとうございます」
同じ学年――二年ではない。
男を「先輩」と呼んでいたということは、三年でもない。
「一年か」
「はい」
学校帰りなのだろう。
スクールバッグと、細長い小振りなバッグのようなものを持っている。
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