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ついに包囲を抜けて、たった一人になった時、不意にユウトは足を止め、首だけで僅かに振り向いた。
引きちぎった尉官証を指でつまむように持ち、その端に胸から取り出したライターを押し当てる。
始めは見え辛かったが、徐々に煙がたち、繊維が焦げる匂いが広がった。
ふわりとユウトは尉官証を空に投げ上げる
滑走路独特の強い風で僅かにそれは舞った
「お前ら、忘れんなよ。いずれ俺が息の根を止めてやる。全員な……」
パサリと布切れが地面に落ちた時には、すでにユウトの去る背中は小さくなっていた。
その美しい金髪だけが照りつける太陽に反射して眩しく輝く。
地面に横たわる黒い塊から煙が出なくなった時、一人が深く息を吐いた。
それを皮切りに、次々と緊張から開放され、呼吸すら出来ていなかった事に気付く。
それほどの脅しだった。いや、彼の場合は脅しでは無く本気なのだ。
そしてそれが分かっている分恐ろしい。
メイスでさえ、その背に冷たい水が流れるのを感じていた。
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