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「人生なんて全て嘘でできてるよね」
彼女は人もまったくいない日が陰ってきた頃の学校の帰り道、あの人と同じことを口走る。
どこでその言葉を知ったのか。はたまた彼女自身からでた言葉なのか。僕には分からなかった。
否、そんな事はもうどうでもいい。僕にとってその言葉を知っていようが知っていまいが対して何も変わらない。
彼女がその言葉の意味を完全に理解しているわけがないのだから。
「いきなり何?」
「いきなりはいつものことだよ。」
そんなのは知ってる。と言い返すと彼女はつれないなあと一歩前にでて僕に振り返った。
綺麗な腰まで伸ばした少し茶色がかった髪がサラサラと彼女の肩から滑り落ちる。綺麗な灰色の瞳に整った顔立ち。ほんのり赤く染まった頬は夕焼けでさらに赤く見える。全てをとってもこの世界で彼女以上に美しいものなど存在するのだろうか。それくらい彼女は美しい。
そんな彼女に出会ったのはもう二年ほど前のことだ。有名進学校に主席という形で学した僕は新入生代表の挨拶をしたあと何百人という生徒達の中から何故か彼女に目が釘付けになった。そして、彼女と目が合う。目線を反らそうにも僕の中の何かがそれを拒み段々と侵蝕していったのは未だに忘れやしない。
所詮僕の一目惚れなのだろうか。運命だとかそんな非科学的なものは僕は信じはしないけれど。
ただこの時だけはそれもありかなと思ったのは僕の中だけの真実だろう。きっと誰にも知られる事の無い僕だけの真実さ。
振り返った彼女は僕の目をじっと見つめてまた不思議な事を口走る。
「和君。柚ね、人間は皆嘘吐きだと思うの」
「へえ、また当たり前なこと聞くんだね」
「うん。だって嘘吐きじゃないと、ーー でしょ」
彼女の隣を大きなダンプカーが耳を破壊するような音をたてて走り去った。彼女の唇の動きだけではわからない言葉を僕はもう一度問い返す。
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