ビー玉哀歌

13/16
前へ
/16ページ
次へ
一瞬、何を差し出せばいいのか恭一には分からなかった。つられるように手を伸ばしかけて、自分が今大事に持っているものに気づく。 恭一がその手を空中へと掲げても、ガラス玉は鈍くしか光らないだろう。それはたとえ彼女でも同じはずだ。誇りを被り、くすんでしまったそれを見て、恭一は思う。けれど心のどこかで、もう一人の自分がそれは違うと言っている。 ガラス玉が光るのは、琴子がそれに触れたからだ。そんなことを言ったなら、琴子は笑ってくれるだろうか。 差し出されたその手にそっと触れた。小さなガラス玉を握り締めながら。 彼女の指先が触れた瞬間、手の平サイズのがらくたがほんの少し、光ったような気がした。それはきっと、目の錯覚だったのだろう。 彼女は笑った。小さな掌にビー玉を握り締めて、欲しいものがやっと手に入った子供の輝きを瞳へ湛えながら。楽しそうに楽しそうに微笑み――それきり、恭一には興味を失ってしまったらしい。腰まで伸ばした髪をなびかせてくるんと窓の方を振り返り、もう二度とこちらを向くことはなかった。
/16ページ

最初のコメントを投稿しよう!

7人が本棚に入れています
本棚に追加