ビー玉哀歌

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駅が開くまで読書でもしよう。隣に置いていた鞄をがさごそと漁っていると、――からん。乾いた音が早朝の駅構内へ鳴り響いた。 辺りを見回せば先程ポケットへ捩込んだビー玉がコンクリートの上に転がっている。外の冷気にあてられてひんやりと冷たいそれを握り締めれば、恭一の思考は自然とその鈍い光へ引き込まれていく。 彼女が死んだとき、傍らにこのビー玉が転がっていた。彼女は最期まで、ビー玉を握り締めていたのだ。小さな光に目一杯近づこうとして、思い切り身を乗り出して、――そのまま、転げ落ちた。 転落死。それが彼女の死に与えられた名前だった。 琴子は最期まで少女のまま、綺麗なものを抱いて死んだのだ。それが彼女にとっていいことだったのかどうかはもう分からない。分からないまま、恭一は今二人が育った地を離れようとしている。二人が歩いた道を歩き、二人が行かなかった場所へ行く。 或いは。 琴子はどこかへ逃げたかったのかもしれない。光り輝く綺麗なものを手にして、その光が、いつか自分を何処かへ連れていってくれることを期待していたのかもしれない。恭一の腕を掴んで走る彼女は、青く輝く陽射しのもとにビー玉を天高く掲げていた。まるでそれが、道標でもあるかのように。
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