ビー玉哀歌

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つらつらと続いていた恭一の思考を断ち切ったのは、第三者の声だった。 「お客さん起きてる? そろそろ改札開けるよー」 馴染みのある駅員の声で、恭一は目線を上げる。辺りはもう明るくなっていた。さっきまで太陽を覆っていた雲の隙間から、透き通るような朝の陽射しが恭一の足元まで落ちている。 重たい腰を上げ、恭一は立ち上がった。掌の中で、ガラス玉は殆ど温くなっている。 伸びをするついでに、差し込む陽射しへとそれを掲げてみた。固く冷たい床へと散る、出来損ないのプリズム。ただそれだけの光景だった。 恭一は苦笑して、――ベンチの横にあったごみ箱へとその小さながらくたを放り投げた。緩く弧を描いたそれは一発で穴の中へ吸い込まれる。恭一の掌には何の感触も残らなかった。そして何のひねりもない、ただの光の屈折を、恭一が美しいと思うことは二度とない。そういう感情は彼女が全て持って行ってしまったのだと思う。 電車の到着を知らせるベルが鳴り響く。財布の中身を確認しながら踵を返す。後にはただ、かつて美しかったものだけが残された。
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