ビー玉哀歌

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「……お嬢様! 」 少女の言葉に被さるようにして降ってきたのは、中年女性の金切り声とどすどすという足音。少年は思わずびくりと首をすくめた。逃げる前に寝巻の袖を掴まれた少女は、拗ねたように不服そうな表情をしている。 「私が掃除をしている間に何処へ行かれたのかと思えば……。お嬢様のお体はまだ万全ではないんですよ。立ち歩いてはいけません。坊ちゃまもお嬢様を連れ出さないでください」 連れ出してねえよ、と少年が反論するも、女性の心配げな表情は完全に少女の方を向いていた。当の少女はむくれたまま、掴まれた袖をぶんぶんと振っている。 「永瀬さんは見くびり過ぎだよ、私のこと。私はこんなに元気で、お外の天気はこんなにいいのに何で遊んじゃいけないの?」 喋りながら、少女の目はちらちらと外の方を向いている。無理もない。夏と呼ばれる季節に入ってからこっち、少女は一度も家から出ていないのだ。姉弟揃って肌の色が白いのは母親からの遺伝だが、少年の肌が夏らしく小麦色に焼けているのに対し少女のそれは薄く透き通った白のまま。
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