ビー玉哀歌

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今にも外へ飛び出しそうな少女の姿に、家政婦は深々と溜め息を吐いた。女性の割に大柄な身体を丸めて少女と目線を合わせる。 「お体が良くなりましたらいくらでも外で遊んで頂いて結構ですよ。ですが今は駄目です。もしお嬢様が遊んでいる時に何か万一のことがありましたら、私は奥様に示しがつきません」 いいですか――家政婦の説教は続く。その手は少女の寝巻の袖をしっかりと掴んだままだ。引っ張られぶらぶらと動くそれをなんとはなしに眺めていた少年は、ふと目線を上げると少女が自分に目配せを送っていたことに気付いた。家政婦の話を聞くふりをしながら――ぱち、ぱち、ぱち。片目だけを送って寄越している。最初、少年にはその意味が分からなかった。 が、 「――奥様の指示に従い、お嬢様と坊ちゃまを守るのが私の使命です。ですから――」 ふと、家政婦の言葉が途切れる。次の言葉を探す為の数秒――袖を掴んだ掌の力が、僅かに緩む。 「走れ! 」 気がつけば、強い力で腕を掴まれていた。思わずたたらを踏みながら、少年は訳も分からず走り出す。後ろから響くのは家政婦の叫び声。サンダルをつっかける暇もないまま、裸足の足にざらついた砂のつぶてが痛い。
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