ビー玉哀歌

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家の門を抜けて、ぬかるんだ畦道へと足を踏み入れる。じりじりと響く蝉の声が熱を帯びた空気を揺らす。朝に降った雨はまだかろうじて残っていて、一面の青々とした穂波に光の粒がきらきらと散っていた。その間を跳ねるように少女は駆けて行く。どこまでも続きそうな一本道、青く広がる空。 「なあ、琴子――」 足の裏を泥でぐちゃぐちゃにしながら歩みを止めない少女に語りかけようとして、――少年はそのまま口をつぐんだ。 少女の掌の中から光が零れている。 まるで何かを掴もうとするかのように天高く伸ばされた手、そこから零れる光は薄青のガラスを透かし、ぬかるんだ地面へと落ちている。 それは先程まで、少年が何気なくしていた行為と同じ。けれど、何かが違う。 腕を引かれている少年からは、少女の顔は見えない。だから、少女がどんな表情をしているかは分からない。 分からないのが嫌で、少年はまた口を開いた。 「琴、――」 からん。少女の掌から、光が落ちる。 振り返った少女の顔。それを表現する言葉を、少年は知らなかった。少年はまだ、子供だったのだ。けれどだからこそ、咄嗟に思った。
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