ビー玉哀歌

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姉が、泣いてしまう。 何故そう思ったのか。少年には分からなかった。泣くときには火がついたように泣く子供だったのだ、少女は。道で転んだとき、少女の大好物を少年が食べてしまったとき、少女はこんな顔はしなかった。眉をほんの少し下げて、――途方にくれたような顔で、道に落ちたラムネの瓶には目をくれることもなく。少女はそっと、少年の腕を離した。 「――――」 その時、少女は一体何を言ったのか。少年は覚えていない。ただ言えるのは、その言葉を聞いたのは少年ただ一人だということ。そしてその言葉は、少女自身の何事も変えなかったということ。 歩みを止めた二人に、程なくして息を切らした家政婦が追い付いた。先程よりも若干目の吊り上がった形相で、どすどすという足音もいつもの三割増し。少女は逃げようとしなかった。袖ではなく腕をむんずと掴まれても、先程のようにぶんぶんと振ろうとすらしない。 「全く、お二人はやんちゃ過ぎて手に負えません。奥様がこのことをお知りになったらなんとおっしゃるか。――帰りますよ、お二人とも。たっぷりお説教してあげます」
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