ビー玉哀歌

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まだ辺りは薄暗いものの、東の空はうっすらと白み始めている。明け方の星は弱々しい光を放ち、ひっそりと消えていく。畦道を歩きながら、恭一は空を見上げていた。 恭一にとって、姉――琴子の記憶はあの夏で止まっている。 あの日を境に、琴子の容態は急変した。同時に、家の雰囲気も。姉の病気については何も知らされていなかった恭一にも、それは容易に感じ取れた。親子三人で囲む食卓、「琴子は? 」と幼い恭一が問うたび、母の瞳はほんの一瞬伏せられる。 「琴子はね、夢を見ているのよ」 まるで痛みを堪えるかのように絞り出された母の言葉。その意味をおぼろげながら理解出来るようになったときには、恭一はとうにその名を口にしなくなっていた。 俺は忘れたんだ――恭一は独りごちる。或いは忘れたかったのかもしれない。自分を忘れ、違う世界へと旅立って行った姉のことを。 三月終わりの早朝、辺りの空気はしんと冷えている。ちらりと覗いたばかりだった太陽は、いつの間にか雲が押し隠してしまった。乾いた地面に光は落ちていない。恭一は空を仰ぐ。
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