明日、氷河期になあれ

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「まじ頼むって! 風夏さん!」  それは、髪だ。辺りはオレンジ一色だというのに、染まることなく唯一無二に輝く冬哉の髪。この色を何と表そう。金髪? 黄色? 違うなあ。そんな凡庸な言葉で表したくない。  だって、ほら。今でも鮮明に思い出せるから。いつもと同じように淡々と学校生活を終え、下駄箱で靴を履き変えたあの日の事。顔を上げればいつも通り、荒涼とした帰路が静かに伸びているだけのはずだというのに。  あの日だけは違った。味気ない私の視界に飛び込んできたのは、悪戯っ子のような笑顔を浮かべた冬哉。それまでの私は彼の存在も知らなかった。クラスも違うし、話した事も無かった。けれど彼はまるで当然のように手を差し伸べてきたんだ。 ──── "一緒に帰ろうぜ!"  私の世界を色づけた彼。風に揺れる髪は、まるで真夏の朝に窓を突き破ってくる日差しのように眩しくて、私は思わず目を細めたのを覚えてる。けれど一度正面から見つめてしまえば、眩しいのは彼のせいではなく、暗闇ばかりに目が慣れてしまっていた自分自身のせいなのだと気付いた。  だけど仕方が無いと思うんだ。それまでの私の世界には、色なんて無かったのだから。 「おい風夏ぁ! 聞いてる!?」  ぼーっと記憶を辿る私にズカズカと歩み寄り、私の顔を覗きこんでくる冬哉。彼の髪がさらりと揺れ、その瞬間に脳みそがフル回転する。ああ。そうだ。これを表現するのにぴったりなものがあるじゃないか。 「……シトリン」 「なんだって!? ワセリン!?」 「シトリン」 「シト……はあ!?」  そう、シトリンだ。  私の好きな、彼の髪。  絶えず輝く、シトリン色だ。
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