明日、氷河期になあれ

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 速水 冬哉(はやみ とうや)は変人だった。 「ねえ冬哉。冬哉の家ってどこだっけ?」 「んー? 時空を超えた向こう側」 「はあ。またふざけてる……」 「ふふっ、俺の家を知ろうとは百年早いぞ火威 風夏(ひおどし ふうか)! 何故なら俺の家は三百年前に没落したニンジャの一族の末裔の……」  あろうことかプラスチックのシャベルをクナイに見たて、一人でポーズを決める男の子。しまいにはクソ寒い台詞を堂々と言い放つ様子にため息が出る。これが私と同じ小学三年生でなかったなら、両腕に発生しているこのさぶイボは、こんな量では済まなかっただろう。  日が落ちかかったオレンジの公園で、この場に居るのは彼と私の二人だけ。私はパンダのスプリングに跨り、目の前の砂場で生き生きと砂遊びに勤しむ冬哉を眺める。今度はニンジャごっこから泥団子づくりにシフトチェンジしたようだ。どうせなら同じクラスの男の子でも誘った方がよっぽど楽しいだろうに。  それにしてもいつからだろうか。こうして彼と帰路を共にするようになったのは。まあ大概冬哉がゴネて、こういった道草につき合う破目になるのだけれど。 「うおおおおお! 泥団子がツヤツヤにならない! 砂だ! あっちのサラサラの砂が必要だ風夏!」 「…………」 「持ってきて風夏! 早く! 俺はいま手が離せない!」 「そうなんだ。大変だね」 「風夏あああああ!」  何やら喚いている冬哉を鑑賞しながら、私は前屈みになって頬杖をついた。『落ち着き』という言葉を知らずに育ったらしい彼は常に騒がしく、耳元でタンバリンを乱打されているかのような不快感を感じる事さえある。けれどそんな彼だが、一つだけ。私が思わず魅入ってしまった、あるものを持っている。
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