明日、氷河期になあれ

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「つーかヒマだなぁ……。おい風夏! ライダーごっこしようぜ!」 「やだ」  まだ未完成の泥団子を放り投げ、冬哉は嬉々として立ち上がる。この上なくキッパリ断っているというのに、冬哉の耳には届かなかったらしい。足元のシャベルやらバケツやらを端に寄せ、にやりと笑みを浮かべながら腰を落とす冬哉。何だかよく分からないポーズを全力で決め、スプリングに跨ったままの私に指先を向けた。 「破壊光線! びびびびび!」 「馬鹿じゃないの」 「だあっ、もー! ちょっとくらい付き合えよぉぉ」  だらしなく間延びした声を吐きだす。加えて子供みたいに地団太を踏むもんだから、そのたびに飛び散る砂が私を襲った。すかさずランドセルを開けて取り出した下敷きを盾にし、間一髪それを防ぐ私。しかし私の行為は彼のスイッチを入れてしまったらしく、冬哉は目を輝かせた。 「やるなッ、怪人シタジキーン! しかしその盾もどこまで持つかな!?」  満面の笑みを浮かべた冬哉に溜息が出る。完全にライダーモードに入ってしまった冬哉は、両手で掬った砂を私にかけようとした。冗談じゃない。そんなことされたら服が汚れる。 「いい加減にしなさい」 「いでぇッ!!」  下敷きを縦にしてスコンと叩けば、冬哉は脳天を押さえてしゃがみこんだ。右目だけ涙を滲ませながら、シタジキーンに負けたと砂場に顔を埋める冬哉。私は慌てて彼を起こし、『何やってんの』と文句を言いながら砂を払ってやる。  目の奥が痛くなるほどの晴天。  呑み込まれてしまいそうな入道雲。  汗ばんだ髪を攫う、カラリとした熱い風。  そんな中でも常に長袖・長ズボンに身を包む男の子。速水 冬哉は変人だった。
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