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信忠は直ぐさま蘭丸を馬に乗せると本能寺を背にし集まった兵に叫んだ。
「皆すまぬ、某は死ねぬ。父上の天下、謀反者に渡してはならぬのだ。これより我等は安土へ向かう。急ぎ行くぞ。」
下知が終わると同時に貞勝は兵を纏め先行し、それに続くように信忠や蘭丸が発った。
途中決死隊として十数騎の兵が信忠の鎧を着た兵を守る様にして離脱し二条城へ向かい、明智軍をおびき寄せ、妙覚寺へと向かった。
元々防備に向かないこともあり、抵抗も僅かに最後は明智軍に包囲されながらも妙覚寺に火を放ち笑顔で散っていった。
安土道中、予想と異なり本能寺以外の包囲が薄い明智軍に違和感を感じながらも信忠はひたすらに馬を走らせた。
(光秀の狙いは父上の首のみか、いや、某の首も必要なはず。さすれば……先の分かれた軍が引き寄せてくれたか。父上……皆、必ずや……)
無言で唇を噛み締め、余りの力から血を流すが家臣達も信忠の気持ちを察し何も言うことはなかった。
信忠らが安土へつく頃明智軍は事後処理に追われていた。
まずは朝廷や公家に敵意の無い事を示す書状を送り、信長に変わり京の守護を約束した。
次に元より友好のあった畿内の者に謀反の結果、更に協力を促す書状を次々と送った。
しかしながら本能寺、妙覚寺を炎上させ、その上信長の遺体は見付からず。
また信忠らしき者を妙覚寺で見るも、焼け崩れ落ちた寺から見付かる遺体はもはや顔の分からぬ者ばかり。
そのような状況の中、村井貞勝や斎藤利治、更には森蘭丸の姿を見た者がおり、光秀の謀反により信長、信忠が討たれたと言う事実の信憑性は低くなるばかりであった。
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