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しばらく待ってると、庭の向こうから背の高いおばさんが歩いてきて、アニスの所へ案内するって言った。
おばさんに続いて建物の中に入ると、今度は廊下の窓の向こうが植物園みたくなっていた。
この建物は回の字状になっていて、この植物園みたいのは孤児院自慢の中庭だって説明を受けた。もっと子供達が遊べるような中庭にすればいいのに。
「アニスちゃんね、誰にも心を開かないのよ」
歩きながらおばさんがそう言った。
「やっぱりですか……」
「両親から貰ったって言うぬいぐるみを抱いたままね、誰とも喋らないの」
「あれ、あのぬいぐるみ、ボロボロでしたよね?」
「うちの職員で縫い直してあげたのよ。一瞬でも手放すのを嫌がって、ずいぶん苦労したけれど」
おばさんは、苦笑して言った。
アニスは僕といる時も、ずっとそのぬいぐるみを抱いていた。聞けばその日、良い子にしていたご褒美にと、両親が買ってくれたものらしい。当然、瓦礫の下敷きになっていたから、綿は飛び出てるし腕は取れかけてるし、本当にボロボロ。それでもアニスは、ぬいぐるみを放そうとしなかった。
その気持ちは、痛いくらい分かる。
僕だって、もしお母さんから貰ったプレゼントが残っていたら、きっと今も大事に身につけているだろうし。……僕の場合は、全部燃えてしまったけど。それは良かったのやら、悪かったのやら。
おばさんに案内されて開けた扉の向こう。6つのベッドが並んだ部屋の隅っこで、アニスは体育座りをしていた。
「アニス」
「あ……」
アニスは僕の顔を見て、少しきょとんとしてから、
「ケントおにいちゃん」
嬉しそうに笑ってくれた。
赤い髪の毛を可愛らしいピンクのリボンで結んで、黒いドレスのようなワンピースが、その笑顔に良く似合っている。きっと将来は美人さんになるに違いないな。
僕はおばさんにお礼を言ってから、アニスの方へ歩いて行って、ドサリとプレゼントの箱を床に置いた。
アニスはそれを見て、
「それ、なぁに?」
歳相応のあどけない口調でそう言った。
「うーん……」
僕は少し困ってしまって、苦笑をした。
「本当は、アニスのぬいぐるみが壊れてるから、その代わりにって、思ったんだけど」
アニスは眉を寄せて、胸に抱いたよれよれのぬいぐるみを、ぎゅっときつく抱いた。取られてしまうと思ったのかな。僕はそれを見てまた苦笑して、アニスの隣に座った。
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