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勿論、それが父の吐いた嘘だと、子どもの私にも分かりました。
なにせ、口にした当人が、一番自分の失敗に気付いて、何とか場を取り繕おうと四苦八苦していましたから…。
…私の知る父は、口下手ではありましたが、その分周到な準備でカバーしようとする人物です。
会議一つにしても、前日まで入念に資料を調べ上げ、必ず相手に自信や誠意が伝わるようにプレゼンを組む様にしていました。
そんな父が、子どもでも分かる様な嘘を吐くまでに追い詰められていたのです。
これはただ事ではない。
私は何も理由を聞かず、直感的に父の言葉に頷きました。
ただ、ほんの数日間、ほんの一時だけこの町を離れ、後は、またいつもの暮らしに戻れるのだと、単純にそう信じていました。
ですが、まさか、それが都会暮らしの最後になるとまでは、さすがに想像がつきませんでした。
私が頷くと、父はあからさまにホッとした表情を浮かべ、私を引き連れて、急いで最寄り駅へとタクシーを呼びました。
父と私は、幾つかの電車を乗り継ぎ、東京駅まで出ると、新幹線に乗り換えました。
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