序・夏の始まり

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こんにちは。 ええ、そうです。確かにこれはウチの神社の名前ですね。 そうですか、S谷さんの御紹介でこの神社の謂れを聞きたいと。 最近の学生さんは旅をするのが流行りなんですか。 いえいえ、特に他意なんてありません。 この町はご覧の通り、何処にでもある寂れた町です。 観光客を呼べるものなんて、この町にはあまり無いですから、少し物珍しく思っただけ。 それで、この神社の謂れは天照大神が…、え、そうじゃなく新しい方の謂れですか。 困りました、私達夫婦の物語などを聞きに、わざわざ東京からいらっしゃったんですか? ええと何と言えば良いか、…なかなか恥ずかしいんです。 ウチの旦那との馴れ初めなんて、半分以上、内輪ののろけ話じゃないですか。 聞く方もうんざりされるかも知れませんが、話す方も…。 私は昭和58年の生まれで、そうですか、私と二つ違いでしたか。 なんか、弟と同じ年の方に自分の恋ばなをしようなんて、何か緊張しますね。 ええと、でもS谷さんの御紹介ですから無下にも出来ませんし。 すいません、少々お待ちを。 少し息を整えます。 うん、はい、ふう。 今日も夏日になりそうですから、立ち話もアレです。社務所まで来て頂いても宜しいでしょうか。 それに、実際に話の舞台を見て貰った方が雰囲気が出ると思います。 冷たい麦茶を御用意しますから、縁側で飲みながら、ゆっくりとお話しましょう。 あ、ウチの神社の階段は踊り場が小さいですので、足元にお気をつけて。 昨日の雨で滑りやすくなっていますから。
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