序・夏の始まり

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どうですか。 この場所からなら、町全体が見渡せて、結構お勧めの場所なんですよ。 …はい、ここまでいらっしゃる途中、大まかな町の様子はお分かりになったと思います。 四方を山に囲まれ、シャッターの閉まったままの商店街に、自然ばかりで人とすれ違うことも珍しかったでしょう。 お年寄りが多い町ですから、夏日予想の日は、冷房の効いた室内で過ごすのが基本です。 ああ、御土産用の特産品なら、この時期なら取れたての胡瓜やピーマンなんかの夏野菜が、近くの直売所に安く並びますよ。 そうですね。 以前は、この町にも林業関係の大きな会社も有りましたが、バブル期以降は安価な外材に圧され、何年も前に倒産に追い込まれたと聞きます。 病院も個人医院しかないから、大きな手術ともなれば、遠くの町まで救急車で運ばれます。 あまり職も選べず、住民税は高い。 そんな町だから、若者は町に留まりたがりません。 ある程度の年齢になれば、刺激や出会い、何より働き口を求めて、当たり前の様に遠く離れた都市部を目指します。 だからでしょう。 町に残る人達は皆、この町独特ののんびりした雰囲気が好きなんです。 確かに、欠点を挙げれば幾らでも有ります。 けれど、それ以上のものが、この町には有るように思います。 山の中の営林署跡も、今は町の子ども達の秘密基地に改造されてるのだとか。 この先の脇道を通れば、小一時間でトタン屋根が見えますよ。 ふふっ。 そんな小さな町なんです。
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