6人が本棚に入れています
本棚に追加
それでは、何から話し始めましょうか。
取り敢えず、一番話しやすい私達の事から始めましょう。
既にお聞きの通り、私の名前は吉川水乃と申します。
職業は、専業主婦。
以前は、町の外に勤めていた時期もありましたが、しばらく前に辞めてしまいました。
現在は、この神社の管理手伝いとして、境内の掃除や水撒きなどで、のんびりと日々を過ごしています。
なにぶん小さな神社のこと。
基本的な作業は、女の私一人でも、小一時間もあれば終えてしまいます。
この社務所の掃除は、一ヶ月に二三度、何日かに分けて。
実は、今日もその途中で、少々お見苦しい点はあるかと思いますが、ご容赦下さい。
元々、年に数度、催し物使われる程度ですから、少し埃っぽいのは、その為です。
滅多に使われない離れ、とでも申しましょうか。
この縁側を、昨日のうちに乾拭きしていたのは、本当にラッキーでした。
この場所も、昭和の初め頃まで御神輿の安置場として使われていたと聞きます。
ですが、氏子さんが少なくなってからは、担ぎ手や修繕費用などが問題となりました。
その為、御神輿は長らく担ぎ棒が折れた状態で放置されたままだったそうです。
あまりの惨状に、先代の神主が遠くの宮大工の方に頼み、引き取って貰ったと言います。
今のところ、この土地の歴史を記した古文書や、古い時代の絵巻物の保管などが社務所の主な役割でしょう。
神主の話では、幾つかの資料は明治期や戦時中の混乱で失われたそうで。
学者の中には、そちらの詳細を知りたがる方もいらっしゃいますが、今ではもう誰にも解りません。
何処かで発見されることを祈るばかりですね。
とは言っても、全て、私がこの町に来る随分昔の出来事ですから、詳しいことは今の神主の方にお聞き下さい。
最初のコメントを投稿しよう!