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今考えても、寂しい家庭ですね。
ですが、幸か不幸か、それが私の家族だけでなく、周りの友人にも似た様な境遇の子どもが多かったことが、私達の中の基準を変えていたのでしょう。
私達にとって、両親といること自体が贅沢なものなのだ、と。
そうした話題を給食の時間の話のタネとして、お互いを引き合いに出したりしていました。
そんな風に、子どもながらに、両親不在の状態に慣れていました。
あるいは、同病相憐れむという意味合いで、奇妙な連帯感や痩せ我慢だったのかも知れません。
全く、変な部分でスレていていました。
…お恥ずかしい限りです。
さてさて、そんな私の日常が終わりを迎えたのは、小学三年生の夏休みを迎えたばかりの頃でした。
その日、私が学習塾の夏期講習を終えると、父が自宅の玄関先で佇んでいました。
しかし、その様子はとても平時のものではありません。
仕事帰りのスーツ姿に、背中に大きなリュックサックを背負い、両手には満杯の荷物が詰め込んだ旅行鞄をぶら下げていました。
まるで、夜逃げする格好そのものです。そして父は、じっと私を見つめて言うのです。
今から旅行に出掛けるぞ、と。
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