序 ―復讐法―

10/10
前へ
/267ページ
次へ
 市民たちはこのような企業と契約を結んでいることが一目でわかるように特殊に加工されたバッチやワッペンや腕章などの目印を身に付けました。  しかし一方でこれらの企業と契約できない、お金のないものたちは自分たちの戸籍情報を隠すようになりました。  これは自分たちが犯罪を犯した時に身寄りが仮になかったとして、それで復讐への抑制力がおさまるのを警戒してのことです。  そしてこうした人々は決まって本物に似せた復讐保険企業の目印を付けるようにしました。  しかしこうした中でも私兵や企業傭兵を雇えるものとそうでないもの、また身寄りのあるものとそうでないものとの間に次第にたしかな格差が生じるようになりました。  金持ちは安全圏の中で涼しい顔をして過ごすようになり、そうでないものは保険企業と契約したり、そんなお金のない人々は誰かに、とりわけ金持ちたちに復讐の動機を与えないようびくびくとしながら過ごすようになりました。  そして最後に身寄りがなく、お金もない、復讐に対する一切の抑制力を持たない者たちはそれよりさらに身を低くして、徹底的に恨みを買わないようにして周囲に警戒心のアンテナを高く立てて生きるようになったのです。  しかしまた一方でこういったひどく貧しい人々は独自の相互防衛コミュニティーを作りました。かれらは相互に契約を結びあうことで、相互に殺人への保険を掛けあったのです。  これらは法律が施行された時は想像さえされていない未来でした。    時は2044年になっていました。
/267ページ

最初のコメントを投稿しよう!

67人が本棚に入れています
本棚に追加