序 ―復讐法―

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 しかしその後、今度は日本各地でTの無条件釈放を求める激しいデモが相次ぎ、マスコミは連日この事件を「現代の悲劇」として報道し、世論はTに対する同情を強めました。  そしてこの同情世論はさらに復讐のための殺人を認めさせるための市民運動へと推移、そしてこの世論の激しい突き上げを受けて、自民・民主連立政権は上記の「殺人罪の一部例外を認める法案」、通称復讐法を国会に提出、与党の賛成多数で同年六月にこの法案を成立させました。  ここに復讐のための殺人が合法化されるに至ったのです。    それから日本列島では数十件に及ぶ数の事件が相次いで起こりました。  強盗殺人罪で府中刑務所に服役していたW受刑者の出所日、Wが刑務官に別れを告げ、府中町から市街地に出るためにタクシーに乗ろうとした時でした。 「W―――!!」 と叫び声を上げながら何者かが草むらから飛び出してきて、手に持った包丁でWの腹を刺したのです。  Wは抵抗するまもなく、その場へ倒れ込み、絶命しました。  後にこの行為に及んだのはKという無職60歳の男で、Wに13年前女房を殺されていた強盗殺人事件の当事者であることがわかりました。
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