4人が本棚に入れています
本棚に追加
/20ページ
隼人が手足をじたばたさせるが、昴の完璧な袈裟固めから抜け出すことができない。あと10秒で一本。その前に……。隼人は昴の足に自分の足をかけると、そこから一気に昴をひっくり返し、今度は昴に袈裟固めを決めてみせた。隼人がドヤ顔を決める。
「っあぁぁ~! 残念!」
隼人は昴に言われたものだと思い、しっかりと昴の動きを封じている。
「隼人、何やってんの。一本取られたよ」
「……え?」
審判の下したジャッジに隼人は困惑気味だ。
「惜しかったね。もうあと3秒早かったら技ありで済んだのに」
「マジかよ……」
隼人は勝ったと思っていた自分に恥を覚えながら、手の力を緩めた。その瞬間、
「……!」
昴がするっと抜け出し、隼人の右手を掴んで封じ込めた。するとそれを合図に、俊太が隼人の左手、賢介が左足、琢弥が右足をそれぞれ掴み押さえ込んだ。あっという間に、隼人の状況が逆転する。
「おめぇら! 騙したな!」
隼人が必死の形相で叫んだ。
「騙されるほうが悪いんだよ、隼人」
「あのドヤ顔は一生忘れないぜ」
「くっ……!」
賢介の言葉に、隼人は顔を赤らめた。全身の温度が上がっているのが分かる。とてつもなく恥ずかしい。騙されるのは日常茶飯事だがあのドヤ顔を思い出すと、いつも以上に情けない。辱められているみたいで早くこの場から抜け出したい。そんなことを考えていると、何やら辺りが静かになっている。ふとみんなを見ると、全員拳を振り上げている。
「っ待て!」
時すでに遅し。4人の拳が一気に降ってくる。隼人は目を閉じた。
「っ……!」
歯を食いしばり、顔に散らばる無数の表情筋にこれでもかと力を入れる。殴られる。そう、思ったその時、
「ぷっ、何なのさその顔~」
俊太の腑抜けた声が聞こえた。「えっ?」と隼人が目を開け辺りを見ると、4つの拳は隼人から30センチほどの所で止まっていた。
「またかよ~」
隼人が呆れた声を出す。
「それにしても、さっきの隼人の顔はやばかったよな」
昴が思い出したように言う。それに同意するように、賢介が「だな」とうなずいた。横で琢弥が笑いをこらえているのが妙に腹立たしい。さっきのドヤ顔と合わせて2回も辱めを受けてしまった。辱めを受けるというよりは、辱めを受けられてあげた、といったほうが正しいのだろうか。
最初のコメントを投稿しよう!