壱:鳥居のムコウ

11/13
前へ
/13ページ
次へ
瞬きするのも忘れて、風が流れたいった方を凝視する。 「……はな、びら……?」 口から零れた言葉が他人の言ったようなものに聞こえた。 一瞬、紫に見えたのは淡い青の花弁。 秋空のように落ちついた色のそれは、不思議なことにアスファルトの道路に突き刺さっている。 ゆっくりと風が吹く。 その風に逆らうことなく、花は揺れた。 その花があのような音をたてて飛ぶとは思わなかった。誰かが何かしたのかもしれない。 ぎこちなく視線を戻す。 猫は相変わらず鳥居の入り口で微動だにせずに座っていた。 遠くでまたあの綺麗な音が響き始める。 耳の痛みが現実なのだと示し、気のせいだとごまかすことはできなかった。
/13ページ

最初のコメントを投稿しよう!

1人が本棚に入れています
本棚に追加