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「そこのコーヒーを買いたいんですけど」
アンタの短い足が邪魔で通れないのよっ。
とは言わずにわざと奥にある自販機を指さして微笑むあたしに、組んだ足を引っ込めて「どうぞ」と返す声は間違いなく『榊』だった。
その足はムカつくくらい長かったけど・・・。
そして添えられたその笑顔は――。
柔らかそうな髪をかき上げ、細められた瞳は優しそう。
薄い唇の口角をあげ、とろけてしまいそうな甘ったるい笑顔。
あたしは崩れてしまいそうな笑顔を整えて「ありがと」と返し、平静を装ってコーヒーのボタンを押した。
「それじゃ、失礼します」
コーヒーを取り上げ、そう言うと壁に張り付いた二人は「は、はいっ!」と返すのに対して、彼だけは薄い笑みを浮かべるだけだった。
その笑みすら――。
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