第一刻 無

2/14
243人が本棚に入れています
本棚に追加
/187ページ
壬生浪士組屯所前。 そこには背格好にそぐわない刀を腰にさした一人の無表情な少年がいた。 少年は肩に掛かる程度の長さの髪を下の方で結っていた。 髪は光を受けた部分が太陽の色を放つことから、色素の薄さが見て取れた。 少年が門の前に立っていると一人の男がやってきた。 「……もしかして入隊希望の方ですか? どうぞ中へ!」 半ば強引に少年の手を取ると、門の中へ引きずり込んだこの男。 名は沖田総司。背は高く、上の方に結った癖のある栗色の髪は肩にまで届いている女顔の男だ。 少年は隊士になるために来たのか、特に抵抗せず連れていかれた。 「土方さん、入隊希望の方です!」 沖田は、上で結った黒髪が背中まで届き、鋭い目の男、土方歳三のもとへ駆けていった。 「本当か!?」 土方は嬉々として沖田に言った。 「はい! 彼です。」 そういって沖田が先程の少年を紹介すると土方は肩を落とした。 「馬鹿かお前は。んな十六くらいの餓鬼入隊させられっか!」 土方が沖田に怒鳴ると、黙ってきいていた少年が口を開いた。 「……あの、俺ぁもう十八です。今年で十九になりやすが、駄目ですか?」 少年は無表情のまま言うと土方が驚いたようにな顔になった。 少年の年齢もそうだが自分に対し、何の物怖じもせず話した行動に土方は驚いた。 しかしすぐに元の表情へ戻った土方は言った。 「どちらにせよそのホセェ体で、刀振れっか。」 それを横で聞いていた沖田はこっそりと土方に耳打ちした。 「土方さん、その心配はないです。…彼、もう何人か斬ってます。」 「…なに。」 土方の顔はまたも驚愕に染まる。 実質、沖田の勘は当たるのだ。 「……わかった。入隊は許可する。」 「ありがとうございやす。」 少年は抑揚もなく言うと土方と沖田に一礼し、受付へ向かった。 「君、入隊希望?」 受付に座っていた男、林盛は期待を含んだ目で少年を見て言った。 「はい。」 少年は無表情のまま肯定した。 「それはよかった!それじゃあ君の名前を教えてくれ。」 林は陽気に言った。 「はぁ。俺は佐井良作っていいやす。」 佐井は林の様子に戸惑いながらも言った。 「佐井良作………。あっ、もういいから君は道場行っておいで。実力試験のがある。」 「はぁ。」 佐井は林のただならぬ様子に疑問を持ったが、言わるがまま道場へ向かった。
/187ページ

最初のコメントを投稿しよう!