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規則的な人の流れに逆らって、こちらへ向かって歩いて来る人物が居た。
沖田は障子の隙間から顔を出し、その人物に声を掛けた。
「土方さーん。終わったんですか? もう文武館に行ってもいいですか?」
まあその人は、すらっと背が高く、役者染みた美丈夫であった。
「ああ、問題ねぇ……ん?」
廊下を歩く際に違和感を覚えたのだろう。
ふと足元に目をやれば、何故か床が濡れている。
当然その上を踏んだ彼――副長土方の足袋もまた、水に濡れていた。
「何だこの水は。そこら中水浸しじゃねぇか!」
「うわぁ、本当ですね。滑って転んだりしたら大変だ。一体誰がこんな事したんでしょう?」
お前だ。
突っ込みを入れられる人間が三人は存在していたが、とりあえず今の所は思いとどまることにしたらしい。
――後に、隊医とは表向きで、諸士調役兼監察として動いている山崎によって事の全てを報告され、沖田は大目玉を食うことになるのだが――それはまた別の話。
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