一年契約

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  「それじゃあ私と試合して下さいよう。体が鈍って仕方ないんです」 「はあ!? それなら文武館に行って来いよ。誰かしら居るだろ。非番の俺を巻き込むな」 文武館とは、剣術諸々の稽古場として使用されている道場的役割の建物である。 「それが今日は新入隊士の面接中で入れないんです。土方さんったら 『総司は立ち入り禁止だ! 今日は何もしなくていいから入って来んな!』  なんて言うんですよ? 酷いでしょ?」 土方――鬼の副長を真似るよう、両手で目尻を吊り上げて言う沖田。 「ああ、それなら仕方ないか」 日頃の稽古の様子を見ていれば副長の言う事も納得できる。 沖田は剣術師範であるが、他の師範と比較しても稽古にはとことん厳しく、平隊士たちに嫌がられる程だ。 その沖田が入隊希望の者達の相手をしたらどうなるか。間違いなく、入隊する前に挫折するであろう。 「早く終わらないかなぁ。そしたら入って来た新人さんを思いっ切りしばいてあげるのに」  
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