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私のただいまの声が聞こえた母が、
「お帰り。……はいコレ」
帰宅した私への挨拶とともに、荷物を置いたばかりの私にトレイに載せられた食事を渡してきた。
もちろんこれは私の食事ではない。
社長の食事だ。
「いつも悪いわね。詩音(しおん)」
「そんなことないよ。社長、最近私と一緒じゃなきゃ食べてくれないんだもの」
「ほんとにね。社長は昔から詩音にはべったりだものねぇ」
「まぁ、しっかり食べてもらえるよう頑張るわ」
「お願いね」
……そう。
社長は最近年のせいか食事が進まない。
食べるのも億劫なのか、好物の味噌汁ぶっかけご飯ならいいらしいけど。
毎日こればかりというわけにもいかず、いろいろ食べるように言うのだけれど。
いつもツーンと無視してそっぽ向いてしまう。
そんな時、なんとかこちらを振り向くように呼び掛けるのだけれど……
最近の社長は私にしか振り向かない。
前はお母さん一筋みたいな感じだったのに。
私の気持ちを汲んで、慰めてくれているのかもしれないけれど―――
「社長」
呼び掛けるとだるそうに体を起してゆっくり近寄ってきた。
食事ということが分かって、ちょっといぶかしそうな顔をしているけれど、私の顔を見て嬉しそうにしているのが表情で感じられる。
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