序章 【土井歩】

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「此度の貴様が残した戦果、覚えておこうと言ったが…」 長い沈黙の後、玉座の男がおもむろに口火を切った 「はい、光栄の限りで御座いました。」 跪いた姿勢を一切崩すことなく、下段の男は顔を上げた 「貴様が我が軍を抜けたいと公言しているとの噂を聞いた それは誠か?」 抑揚なく濁った声色で語りかける玉座の男の意思は汲み取ることが難しい 否、彼…土井歩をよく知る者にとっては その抑揚の無さこそが憤りを表すものだということを よく知っているから 察することは難くない その証拠に 両隣の屈強を絵に描いたような風貌の男達さえ 手のひらに脂汗を握り込んでいるのだ 「誠に御座います。 私は、土井軍から抜け出し 何に属することなく 自由に生きることを強く願っております」 一見、丁寧に言葉遣いを選んでいるように見えて その実、喧嘩を売っているようにしか見えないことに気付かないほど 下段の男は白痴ではない これは一国の支配者たる人間相手へ クーデターを起こすと堂々宣言しているようなものである
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