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楓太は、売れる前から注目していた青田買いファンの優越感溢れる笑顔を気取って口角を上げる。スプレンドの事はいかに健志だって存在くらいは知っているし、池良美乃の転校が楓太のおかげでない事だってわかっている。それでも健志は、それなりに感心したそぶりで驚いて見せた。
スプレンドはデビュー曲が三週間もチャート一位を占有している気鋭のバンド。街中いたるところで目にするポスターではボーカルの池良美乃が派手なメイクでポーズを決めている。同い年だったという事実に健志は少なからずショックを受けた。
それは凡そ他の同級生も同じで、素顔を拝めることへの好奇心と特権意識とで、ざわめきは収まる事をしらない。
「もう、来てるのかな?」
「騒ぎになるからって、俺たちの登校時間よりかなり早めに来てたみたいだ」
「お前、詳しいな」
「俺の情報収集能力は学校イチだぜ?」
楓太の父親はジャパン・ジャーナリズムの記者で、何度か社長賞も受賞している敏腕ジャーナリスト。楓太は素直に父親に憧れ、早くも将来の夢を決めている。ジャパン・ジャーナリズムは芸能ゴシップを扱わない硬派な方針に定評があって、だから
池良美乃の情報は父親ルートではなく、楓太独自に入手したものだろう。
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